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12月25日 |
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ウィンターカップ3日目も順調に勝ち進んだ。 明日からの試合はさらに厳しいものになる。 早めに帰宅して、各々疲れを取るようにとの指示があった。 駅前のツリーも今日が見納め。 特別な思い入れはないけれど、それでも少しだけ残念に思う。 キラキラと光るクリスマスツリーを背にして歩き出した瞬間、黄瀬はすれ違う人とぶつかった。 「あ、すみませ・・・、ん・・・?」 「黄瀬?」 「え?緑間っち???」 目を合わせてしばらく固まった。 お互いに驚いた表情のまま見詰めあう。 人混みから頭ひとつ分高いジャージ姿の二人組はそれなりに目立つらしい。 周りの視線を感じて、我に返る。 「いま、帰りっスか」 「オマエもな」 会うつもりのなかった相手と偶然に出会ってしまって、なんだかどんな会話をしていいのかわからない。 「・・・一緒に見れちゃったっスね」 クリスマスツリーを振り返る。 あんなにも一緒にクリスマスは過ごせないと言い聞かせてきたというのに、とんだクリスマスプレゼントだ。 「そうだな」 緑間も黄瀬の視線に合わせてクリスマスツリーを見上げた。 遠くからジングルベルの音楽が聞こえてきたけれど、もうすぐクリスマスも終わる。 *** 「ねえ、緑間っち。せっかく会えたからお願いがあるんスけど」 ツリーの光に照らされた横顔をそっと覗きこむ。 メガネにも光が反射してきらきらしていた。 「断る」 視線を動かさないままきっぱりと言い切る緑間の表情は変わらない。 「まだなんにも言ってないじゃないっスか」 「嫌な予感しかしないのだよ」 予感がするというのは、自分のお願いが何であるかを予測しているということだ。 予測して、それを断るというのは、断りたいことを想像したに違いない。 「それはそーゆー期待をしてるってことっスよね」 「どうしてそうなるのだよ」 呆れたように視線を向けてくるので、黄瀬はにっこりと笑って、緑間の腕を掴んだ。 「まあまあ、気付いてたんならちょうどいいじゃないっスか」 「何がだ、バカ者」 緑間を引きずるように人混みを掻き分けて、ビルとビルの隙間の路地へと向かう。 「嫌だったら抵抗していいんスよ?殴り飛ばすくらいに」 「・・・まだ気にしてるのか」 「あれは、マジで、酷すぎたっス」 「オマエは少し人目を気にしろ」 「だから、今日はちゃんと・・・」 街灯もイルミネーションも届かない、影になった細い路地までやってくる。 生ごみの異臭と少しだけ鉄錆の香りが混ざり合う。 誰も近寄ろうとはしないような、繁華街の死角だ。 「ここなら誰も見てないっスよ」 「本当にバカなのだよ」 「クリスマスプレゼントっス」 諦めたように溜息を吐いた緑間の唇をそっと塞ぐ。 掴んだ腕を放し、かわりに両手を繋いだ。 角度を変えて、何度かキスを交わす。 触れ合うだけのキス。 それから、腰に響くような深い深いキス。 ぎゅうっと抱き締め合って、もう一度見詰め合って、唇を重ねた。 今まで我慢していた分を取り戻すような勢いで、黙ってキスをした。 そおっと離れて、目を合わせて、熱くなった身体を確かめるようにもう一度抱き合った。 *** 先に身体を離したのは、緑間だった。 「緑間っち?」 温もりがそっと消えて、冷たい空気が流れ込んでくる。 「帰る」 いつもよりずっと優しい顔で笑う緑間が黄瀬の頭を撫でた。 「また明日」 試合会場で会っても声をかけられるかどうかはわからない。 それでも、きっと明日も会える。 「ああ・・・」 名残惜しいけれど、こんなところで時間を費やすわけには行かない。 緑間はスポーツバッグを掛けなおして、先に駅に向かって歩き出した。 「緑間っち、メリークリスマス」 真っ直ぐに伸びた背中に声を投げる。 立ち止まって振り返った緑間が片手を振ってくれた。 追いかけたい衝動を抑えて、黄瀬は手を振り返して、再び背中を見送った。 深呼吸をひとつ。 薄暗い路地からそっと抜け出して、駅前のツリーの前までやって来る。 また来年、このクリスマスツリーを見れば、今日のことを思い出すような気がする。 去年のことを思い出した、昨日のように。 メリークリスマス☆ |
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2012/12/25 |
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メリークリスマス☆ |
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