Happy Birthdayのその後

 
  ※6/18黄瀬くんの誕生日祝☆  
     
 


放課後、緩んだ口元が直せないまま部室に行ったら、ちょうど鉢合わせた笠松に「キモイ」と一言、蹴り倒された。
涙目で反論したら「誕生日だとか聞いたからいつもより抑え目にしてやった」と笑われた。

「そりゃないっスよ〜」
「さっさと着替えろよ」

そう言い残して笠松が部室を出て行く。
結局一人残された黄瀬はのろのろと立ち上がって、自分のロッカーを開けた。
携帯電話へのメールはまだ続いていて、自分のメアドは一体どこまで流れているのかと、苦笑した。


(電話しても無理か・・・)

時計を確認してから、黄瀬は制服を脱いだ。



誕生日だ、プレゼントだと、先輩陣からなぜか2倍、3倍と練習メニューの上乗せを受けて、黄瀬は久しぶりに立ち上がれないくらい疲労していた。
体育館の隅で仰向けに寝転がると、床の冷たさが気持ちいい。

(鬼・・・ばっかだ・・・)

それでも、ずっと基礎体力作りは続けてきた。
持久力は中学時代とは比べ物にならないくらい増えていた。

(でも、足りない)

誰かの模倣をするにしても自分の技術を向上させるにしてもこれくらいでへばっているようでは、戦い続ける事などできない。
タオルで流れる汗を拭いて、起き上がる。

「まだやんのかよ」

コートに戻ってきた黄瀬を見て、笠松が呆れたように笑った。

「まだまだっス」
「誕生日なのに誰とも約束してないの?」

森山からパスを受けて、黄瀬はそのままシュートを決める。

「約束は・・・してないっス」
「よりどりみどりなのに意外とそーゆーとこかたいよな」
「選べないだけっスよ」

笑って答えたら、なんかムカつくと、ボールが3つほど飛んできた。
海常高校のチームワークは悪くない。
帝光中学にはなかった、先輩のいるこの空気も嫌いじゃない。

(約束したかった相手ならいるんスけど)

ほんの少しの寂しさを紛らわすように、黄瀬は練習を続けた。



陽はとっくに落ちて、外灯が照らす帰り道を一人で歩く。
黄瀬は時計を確認して、携帯電話を持った。

(今なら、きっと大丈夫・・・)

深呼吸をひとつしてから、電話をかける。
誕生日が終わるまであと4時間くらいだ。
逸る気持ちを察したのか電話はすぐに繋がった。

『黄瀬か』
「メールうれしかったっス」

余裕を見せたくて、必死な自分を隠すように声音をおさえる。
耳元で聞こえる声。
本当は電話越しではなくて、直接話したかった。

『そうか』

相変わらずそっけない返事を残念に思う。
それが、緑間なのだとわかっているけれど、寂しい。

「それだけ?」
『他に何があるというのだよ』
「緑間っちは今、どこにいるんスか?」
『体育館だが?』
「まだ練習してるんスか?」
『これから帰るところなのだよ』
「片付けのじゃましてるっスか?またかけなおすっスよ」
『かけなおさなくていいのだよ』
「やだ。オレが緑間っちと話したいのに」

話したくないと思わせないで欲しい。
電話が少しでも嬉しかったとか、思って欲しい。
それは、一方的な我侭だったけれど、止められなかった。

『・・・・・・子供か?』
「子供でいいっス。わがまま聞いてもらえんなら・・・っ」
『子供は嫌いなのだよ。あと5分待て』

通話が一方的に切られた。
あと5分で、何があるというのか。
それでもおとなしく待ってしまう。
黄瀬は、目の前の自動販売機でペットボトルの水を買った。
ケーキもクッキーもプレゼントも持ち切れないくらい貰った。
食べ物だけを先に紙袋に入れて、持ち帰る。
一緒に食べる相手もいないのに。

(コンビニのケーキ、一緒に食べたんスよね)

変化していく過渡期。
自分は何も気付いていなかった。
緑間も何も言わなかった。
知っていたのかもしれないのに。

(一緒に居たかったのは嘘じゃない)

ずっと会わなかったくせに。
こんな時ばかり会いたくてたまらなくなる。
ペットボトルの半分まで水を飲んだところで、携帯電話が鳴った。

「緑間っち!」
『うるさいのだよ』
「ちゃんと待ってたんスよ」
『それはわかったのだよ。それで、黄瀬は何を話したいというのだよ』
「わかんねっス。でも緑間っちの声が聞きたいんス」

我侭が許されるなら、嘘偽りなく伝えさせて欲しい。

『国語の教科書でも朗読してやろうか?』

思いがけない提案に黄瀬は持っていたペットボトルを足の甲の上に落とした。

(いったぁ〜)

緑間にそれを悟られるわけにはいかず、足を押さえつつペットボトルを拾う。
蓋を閉めていたのがせめてもの救いだ。

「それすっげーレアっスけど、今日は遠慮するっス」
『・・・・・・。日曜日なら時間があるのだよ』
「え?マジっスか?会いたいっス!何時?オレ、そっちまで行くっスよ!」
『好きにしろ。合わせてやるのだよ』
「み、緑間っち?」

いつもよりずっと優しさを感じて、黄瀬は戸惑った。
誕生日だから?
それとも、緑間も少しは寂しいとか会いたいとか思ったりしたのだろうか。
声だけでは、なにもわからない。

『黄瀬、誕生日おめでとうなのだよ』

自分の気持ちが弱っていたからなのか。
それとも願望の表れなのか。
緑間の言い方と声が初めて聞いたのではないかと思えるくらいに、やわらかく、あたたかかった。

「あ、ありがと・・・う・・・っス」

カタコトにしか言えずに、指が痛くなるくらい強く携帯電話を握り締めていた。
胸がぎゅうっとつかまれたみたいに、苦しくて。

『泣いてるのか?』
「泣いてなんかないっスよ!日曜日が楽しみなだけっス」

精一杯強がって、震える声を隠した。

『さっさと帰るのだよ』
「わかってるっス」

おやすみもまたねも言わせてくれないまま、通話が切れる。
黄瀬はその場にしゃがみこんだまま動けなかった。

(目の前に居ないからって、卑怯っスよ、緑間っち)

最初から全部計算されていたのかもしれない。
昼休み終わりギリギリのメール。
電話を早々に切ってからのかけなおし。
まるでこれがプレゼントだとでも言いたげに日曜日を託された。
トドメは、おめでとうの言葉。
全てが緑間の考えた作戦ならば、見事に踊らされている。

(悔しいっス・・・)

携帯電話を両手で握ったまま、黄瀬は立ち上がった。

(誕生日おめでとうってどんな顔して言ってくれたんスか・・・?)

少し照れながら?
それとも余裕の無表情?

(笑ってたらいいな・・・)

ペットボトルの水を飲み干して、ゴミ箱に捨てた。
携帯電話をポケットに入れて、歩き出す。
心が浮き立つのを止められない。
日曜日のデートプランをあれこれ考えながら、今日が誕生日の自分がすれ違う誰よりも幸せだと思えた。



Happy Birthday!



 
     
 

2012/06/18

 
     
 

黄瀬くんの誕生日を緑間くんにちゃんと祝ってもらいました。
幸せだと思う黄瀬くんの幸せを祈りたい。

 
 

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