Happy Birthday

 
  ※6/18黄瀬くんの誕生日祝☆  
     
 


昼休みは人から逃げるように部室に隠れた。
朝から、おめでとうおめでとうと女子集団に囲まれて、プレゼントやら手紙やらで下駄箱も机の上もピンクや黄色や水玉のリボンで鮮やかに染まった。
笑顔を作って、ありがとうを繰り返し、握手をしたり、サインを書いたり。
慣れてはいるけれど、さすがに疲労もする。
黄瀬はロッカーを背に座って、ほっと息をついた。
これくらい騒がれた方がいいとは思っている。
ただモデルをしているだけではない。
人気のあるモデルでありたいのだ。
女の子に囲まれるのは嬉しい。
同性からの嫉妬と羨望の眼差しも気持ちいい。
自分が標準以上で、女性にとっては魅力的な外見をしている事は、自覚している。
注目される事が糧になる。
だから、女の子には優しくする。
笑顔を振りまいて、手を振って、一時的なアイドルとなる。
それが、道化だとしても、だ。
使い古されたバスケットボールが足元に転がっていた。
黄瀬はそれを手にして、くるくると指先で回転させる。

(16歳になったんスよ)

帝光中学時代が思い出になっていく。
楽しかった事ばかりではなかった。
それでも、その2年の月日があったからこそ、今、自分は海常高校に入ってバスケットボールを続けている。
学校が分かれたからこそ、客観的にそのプレーを分析できた。
模倣する事ができるのかもしれないが、しようとは思わない。
プレースタイルが全く違うのだ。
だからこそ、一緒のチームに居たらどうなっていたのだろうと、思う時はある。
ボールは指から離れて転がっていった。

(離れてると会いたくなる)

毎日顔を合わせていた日々が、どれだけ特別だったのかを思い知る。
同じ学校で、同じ部活で、時々一緒に帰った。
陽の暮れた薄暗い道を話しながら歩いた。
たったそれだけの事が、今はできない。
隣り並ぶ事さえ、簡単じゃない。

(好きって言いたい)

想いばかりがつのっていく。



「動けなくなる前にやめるという判断がどうしてできないのだよ」

体育館の冷たい床が火照った体に丁度いい。
呼吸をするのが精一杯で、黄瀬は仰向けに倒れたまま声さえ出せずにいた。
青峰に1on1を挑んでも相手にされるのは数回に1回だ。
だから、全力を出し切ってしまう。
勝ちたくて。
どうしても、勝ちたくて。
顔の上に柔らかなタオルを掛けられた。
オーバーワークで動けなくなった自分の側に緑間はそっとやって来る。

「だ、って、勝ちたいんス・・・」

搾り出すようにそれだけを答えた。
このやり取りも初めてではない。

「がむしゃらにくらいつくだけでは動きに無駄が多すぎるのだよ」
「・・・でもそれしかできないっス」
「だからバカだと言うのだよ」
「ひでぇっス」
「動けるならさっさと着替えて来い」

タオルの隙間からそっと緑間の方を見た。
もっと遠くにいるのかと思っていたけれど、すぐ側にいて驚いた。
傍らにただ静かに立っている。

(なんでいつもここにいるんスか・・・)

青峰はさっさと帰ってしまうというのに、その青峰と入れ替わりにやってきては、黄瀬が動けるようになるまで側にいるのだ。
優しさなのか、それとも誰かの指示なのか。
夜風が涼しくて気持ちの良いその日。
黄瀬は初めて緑間と一緒に帰った。



今日が休みだったら、会いにいけたかもしれない。
そんなどうにもならない事を思うくらいには、寂しい。

(誕生日だからってわけじゃないんスよね)

メール着信音が鳴り止まない携帯電話を握り締めて、黄瀬は膝を抱えて目を閉じた。
それでも特別な日を一緒に居たかった。



陽も落ちて、暗くなった頃。
外灯の明かりの下で一人分の拍手の音がパチパチと響く。

「ハッピーバースデー、オレ!15才おめでとう、オレ!」
「自分で自分を祝うとはな。寂しいヤツなのだよ」
「緑間っちにも祝って欲しいっス」
「・・・・・・」
「緑間っち〜ぃ」

甘えるように手をつかんだら、乱暴にふりほどかれたけれど、ぷいと横を向いたままぼそっと言ってくれた。

「・・・おめでとうなのだよ」

不意打ちだった。
そんなに簡単に言ってもらえるとは思わなかった。
心臓がぎゅうっとつかまれたみたいに苦しかった。

「あ、ありがと・・・う・・・っス」

カタコトな返事をしたら、緑間にふ、と笑われた。
その表情に見惚れたのも覚えている。
それから、公園のベンチでコンビニのケーキを一緒に食べた。
イチゴのショートケーキは甘かったような気がするけれど、味なんて覚えていなかった。
緑間のその声は今でも鮮明に思い出せる。きっとずっと忘れない。
それは、中学時代の小さな思い出。



電話の音で目が覚めた。
部室でそのまま寝てしまっていたらしい。
黄瀬はぼんやりとしたまま携帯電話を掴んだ。
電話かと思ったらメールだった。

「緑間っち?」

メールボックスを開いた瞬間、目が覚めた。
いつもは自分からしかメールを出すことがない。
緑間からはその返事がきて終わりだ。
返事が来ない時だってある。

(もしかしたら初めて・・・?)

いつも以上に緊張しながら、メールを開いた。

『誕生日おめでとう』

たった、1行。
そう。
それだけだったけれど、黄瀬は携帯電話を握り締めたまま抱えた膝に顔をうずめた。
心臓がぎゅうっとつかまれたみたいに苦しくて。
零れそうになる涙を堪えて。
ただ、嬉しくて。

(緑間っちはオレを殺す気なんスかね・・・)

期待していなかった分、この衝撃は大きい。
折り返し電話をしたかったが、きっと秀徳高校も昼休みで、多分もう少しで終わるだろう。
緑間はそれを見越してのこの時間のメールだったのかもしれない。

(ずるい・・・)

会いたい。
抱きしめたい。
照れる顔が見たい。
自分で選んだとはいえ、今は、この距離が憎かった。

(緑間っちが好き・・・)

プレゼントなんて何もいらない。
ただ、好きになって欲しい。
チャイムが遠くで聞こえて、黄瀬は携帯電話を制服のポケットに入れると、部室を出る。



黄瀬の緩んだ口元がその日ずっと元に戻らなかったのはまた別のお話。



Happy Birthday?



 
     
 

2012/06/18 0:00

 
     
 

黄瀬くんの誕生日を緑間くんに祝ってもらいました。
お誕生日おめでとうの気持ちを込めて、
午前0時ちょうどを狙ってぴくしぶに投稿しました。

 
 

続 → Happy Birthdayのその後