一緒に勉強する話

 
     
 


練習が早く終わる日。
練習が休みの日。
待ち合わせることが減って、かわりに黄瀬の部屋に緑間が訪れるようになった。
外で会うよりも一緒に居る時間が増えたのが嬉しい。


***


黄瀬の部屋で緑間はだいたい持参した本を読む。
黄瀬はそんな緑間の隣りで眠ったり、課題をしたり、映画のDVDを見たりする。
会話は少ない。

「緑間っち」
「なんだ」

呼べば返事をする。
本を読んでいる途中でじゃまをしても咎められはしない。

「ここ、わかんない」

硝子のテーブルに数学の問題集を広げていた黄瀬が、正にお手上げといった風に両手を伸ばした。
緑間は栞を挟んで本を閉じ、テーブルの上を覗き込む。

「y=(x−1)+2」
「え?なんで?・・・っていうか、答えじゃなくてやり方教えて欲しいっス」
「・・・この時期に2次関数が解けないのは問題なのだよ」

溜息ひとつ。
それから、小さく笑った顔。

「笑わなくってもいいじゃないっスか」
「・・・すまない。高校に行っただけでそうそう学力が向上するわけがなかったな」
「あ、赤点はひとつも取ってないんスよ!」
「それは自慢することじゃないのだよ」

緑間は笑いながら、問題をひとつずつ解説していく。
どうして笑っているのか、黄瀬には良くわからなかったが、バカにされてるのとはまた違うようだった。
緑間の説明は年老いた数学教師よりずっとわかりやすい。

(変わったのは、緑間っちっスよね)

中学の頃もテスト前はこうして何度か勉強を教わった。
試合に出る為には赤点回避が絶対条件だったからだ。
その時は、どうしてできないのか理解できないと、口調にも態度にも表れていた。
それでも、緑間は問題が解けるまで根気よく付き合ってくれたのだ。
今はその頃よりもずっと優しい声音を響かせる。

(・・・愛されてる?)

緑間の真剣な顔を見詰めていたら鋭い視線で睨まれた。

「聞いてないだろう?」
「・・・聞いてたっスよ?」

半分は嘘だ。
でも、説明されたことはわかる。

「オマエはもう少し、オレの顔を見るのをやめたほうがいいのだよ」
「は?どーゆーことっスか?」

緑間の顔は好きだ。
長い睫毛にビー玉のような瞳。
色白い肌に薄い唇。
きっとずっと見ていても飽きない自信がある。

(あ、そーゆーことか)

眉間に皺を寄せたまま、溜息を零す。

「照れてるんスか?」
「人の話を聞け」
「オレが好きなのは緑間っちの顔だけじゃないっスよ?」
「そうじゃない」
「じゃあ、なんなんスか?」
「今、必要なのは数学の問題を解くことであって、オレの顔を見ることじゃないと言ってるのだよ」

べしっと額を叩いた緑間は、黄瀬から顔を逸らした。

「キスしたい」
「・・・課題が終わったらな」
「よっしゃ!がんばるっス」

緑間からの呆れた視線を跳ね返す勢いで、黄瀬は問題集と真剣に向き合った。
それでも、緑間の助けを借りていたにもかかわらず、課題の範囲を終わらせるのは、簡単ではなかったのだった。


***


「ねえ、なんでさっき笑ったんスか?」
「オマエが中学の時と変わってなかったからなのだよ」
「それが?」
「うれしかった」

そう言って、照れくさそうに笑う緑間の口を塞いで、抱き締めるように押し倒した黄瀬に罪はなかった。



終わり



 
     
 

2013/03/11

 
     
 

ROOM2にも再録した話ですが、
こちらにも載せておきますね。
ほんのり、
『無意識の産物』を思い出してもらうと、
緑間くんの笑った理由に繋がったりします。