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Happy birthday |
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| ※6/18黄瀬くんの誕生日祝☆ | ||
知らない。知ってる。知らないわけがない。 去年もらったメールはちゃんと保護してる。 そっけないけど、それが一番欲しくて、一番嬉しかった。 ねえ、好きって、すごいんスよ。 *** 「緑間っち、今年は会いたいっス」 わがままは言えるときに言う。 会えない日の方が多いから、言い逃さないように、できるできないは別の話。 「去年も会ったのだよ」 つれない人は、答えも現実的。 でも、知ってる? 去年のこと、覚えてくれてるってこと。 「会ったのは、週末だったスよ。当日に会いたいんス」 「平日、なのだよ」 「10分でも5分でもいい」 「……。それだけでいいのか?」 妥協案を出せば、不思議そうに首を傾げるから、会ってくれるのではないかと期待してしまう。 もっと突き放してくれてもいいのに。 嫌だけど。 でもそうでないと、わがまま言うのをとめられない。 「なんで、すぐ、いいのだよって言ってくんないんスか」 「できるかどうかわからないことに頷けないのだよ」 「嘘でもいいんスよ?」 「オマエはどうしてそうやって自分を傷つけようとするのだよ。バカが」 べしっと容赦のない平手が黄瀬の額に落ちて、緑間の溜息が後から零れた。 これくらいで傷なんてつくわけないのに、そんなところを心配してくる緑間の思考は常に理解不能だ。 「だって、だって」 うまく言えない。 距離が時間がすべてがもどかしくて、つらい。 「約束はできない」 「わかってる」 わかんない。 *** 午前0時。 ハッピーバースデー、オレ。 きっともう寝てる。 期待はしていない。 携帯電話には、次から次へとメールが届く。 知らないアドレスばかりだ。 (この間変えたばっかりなのに) もう、流出している。 女子高校生のネットワークとは、本当に怖い。 今日も朝練がある。 誕生日だからと遅刻するわけにもいかない。 (おやすみ、緑間っち) 約束はしていない。 昨日もメールは来なかったから。 *** 目覚ましの音で、目が覚める。 ぼんやりした頭で携帯をつかめば、未読メールの数がひどいことになっていた。 緑間からのメールは見逃したくないから、自動振り分け機能を使って、受信フォルダを分けている。 ないとは思っていたけれど、未読数が1と表示されていた。 「え?」 朝早くにメールが届くなんて、ありえない。 おそるおそる開けば、『おはよう』の文字。 それ以外の言葉はどこにもなくて、拍子抜けをした。 「お、おはようっス」 携帯の画面に思わず返事をして、黄瀬はのろのろと着替えを始めた。 *** 朝練後、授業が始まるまで、教室に群がる女子たちの相手に終始する。 紙袋いっぱいに色とりどりのリボンや包装紙が詰め込まれていく。 同級生男子の恨みがましい視線を背中で受け止めつつ、ありがとうと答える。 人気のあるモデルでいたいと選んだのは、自分だ。 それでも、2年になってからはさらにバスケを優先させるようになって、ファッション雑誌に載ることも減った。 かわりにバスケ雑誌に載るようになって、同じ学校の有名人という肩書きは、維持されているらしい。 「おたんじょうびおめでとうございます」 まるで、呪文のようにその言葉を浴び続けながら、黄瀬はにこにこと笑って見せた。 どれだけの人数に祝われたところで、満たされることはないのだ。 *** 一限目の授業が始まる前。 携帯を確認すると、また緑間からメールが1通届いていた。 『今日のふたご座は5位だったのだよ。ラッキーアイテムは鉛筆だ』 欲しい言葉はやっぱりどこにも見当たらず、溜息を吐く。 ペンケースには、緑間からもらったころころ鉛筆が常に入っている。 それを持ち歩けばいいのだろうけれど、5位であれば心配もいらないような気がした。 そもそも、占いなど信じてもいないのだけれど、緑間が言うから気になるだけだ。 (なんなんスか?) 普段、メールなんてほとんど寄越さないくせに、今日に限ってはもう2通だ。 緑間の考えていることなど、最初からずっとよくわからない。 *** 昼休み、女子たちのお祝い攻撃から逃れるように、黄瀬は部室にいた。 去年もここに逃げ込んでいたことを思い出す。 メールは次々と届く。 知らない子から知らない子へ。 どんどんアドレスが流出しているようだ。 そんな中、緑間からのメールが1通。 『誕生日おめでとう』 たった一行の、シンプルなメール。 黄瀬は携帯電話を握り締めて、ベンチに寝転がった。 (……、すっげえ、うれしい) 本当に、ただ、会って、抱きしめて、キスをして。 たったそれだけでいいのに。 それが難しいなんて、知らなかった。 *** 放課後、体育館に移動中、またメールが1通。 『午後9時。駅前』 暗号のようなそれを黄瀬は何度も見返した。 (会える?) びりびりと、全身に電流が走り抜けていくような感覚に背筋が伸びた。 嬉しくて、どうしようもない。 その日の練習は、どんなに厳しくても苦しくなかった。 *** 午後9時に間に合いそうもなくて、黄瀬は走って駅に向かっていた。 なんとか電車に飛び乗ったけれど、きっと9時は過ぎてしまう。 慌てて遅れてごめんと、メールを打って送信したけれど、心ばかりが焦る。 会いたい。 会いたい。 わがままを言ったけれど、今日会えるなんて、思ってもいなかった。 緑間は、いつだって、自分の予想を軽々と超えてくる。 がたごとと揺れる電車の中、緑間のことを思った。 *** 電車から降りて、走って階段を上る。 改札を通り抜け、駅前の時計台の下に行けば、緑間がいた。 (あ、ほんとに、いた) 嬉しくて、夢のようで、でも、現実で。 飛びつきたい衝動を抑えて、緑間に駆け寄った。 「遅くなっちゃったっス」 どんな顔をしたらいいのか、わからない。 笑いたいのに、うまく、笑えない。 「走ってきたのか?」 「早く、会いたくて」 「逃げないのだよ」 目の前の緑間は、学校帰りの制服姿で、白いシャツがぼんやりと光って見えた。 駅前はまだ人通りも多く、色とりどりのネオンがきらきらとあたりを明るく照らしている。 「緑間っち」 「なんだ?」 「緑間っち」 「……黄瀬?」 「緑間っち」 名前を呼んで、確かめて、そっと手を伸ばしたら、ぎゅっと掴まれた。 「どうした?オレはここにいるのだよ」 「嬉しくて、心臓が痛い」 向かい合わせで見詰め合って、片手を繋いで。 「黄瀬、誕生日おめでとうなのだよ」 「……、緑間っちのバカ」 「オマエほどじゃない」 べしっと額を叩かれる。 「抱きしめて、キスしたい」 「ここでは無理なのだよ」 「どこならいいんスか?」 「際限ないな。仕方のない」 珍しく緑間が苦笑いを浮かべた。 会えただけで嬉しいのに、それでもその先を欲しがる自分の貪欲さを緑間は許してしまう。 「人目がなきゃいいんスよね」 緑間の手をひいて、黄瀬は駅前からどんどん離れていく。 駅前から、そう遠くない場所にあるのは、昼間はサラリーマンやOLが弁当を広げるような、木々や芝生が手入れされた公園である。 夜は、ベンチで寝る酔っ払いがいない限りは、静かな場所だった。 明るい外灯の下。 誰もいないことを確認して、黄瀬は緑間をぎゅうっと抱き締めた。 会いたかった。 直接、おめでとうと言われた。 それで、十分だった。 体温と匂い、それから小さな溜息。 「黄瀬」 呼ばれて顔を上げたら、ちゅっとかわいいキスをされた。 「……っ!?緑間っち」 驚いて目を見開けば、ぷいっと顔を逸らす。 「ね、もう一回」 ねだるように甘く囁けば、緑間がそっと目を閉じた。 頬を両手で包んで、黄瀬は唇を重ねた。 *** 「なんで、メールを何度もしてくれたんスか?」 「オマエが、欲しいものを考えただけなのだよ」 「欲しいもの?」 「会えないなら、メールが欲しい、電話が欲しいって言っていたのだよ」 「……それで?」 「メールを送った。会いたいというわがままには答えられそうだったからな」 「緑間っちってさぁ」 「なんなのだよ」 「マジで、大好きっス」 Happy Birthday☆ 終わり |
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2013/06/18 |
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※今年も黄瀬くん、おめでとう。 |
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