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帝光黄緑の日2013 |
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*頭から水をかぶって、黄瀬は体育館に戻った。 この暑さで、きっと判断力が鈍っていたのだと、黄瀬は何度も自分に言い聞かせた。 触れた唇の冷たさと柔らかさと間近で見開いたビー玉のような深緑色の瞳。 咄嗟に謝ったけれど、緑間がどう思ったのかが気になって仕方がなかった。 自分の気持ちもはっきりしないというのに、相手のことばかり意識してしまう。 午後からは、試合形式の練習が中心だったが、緑間とは一度も同じチームにならなかった。 対戦してもポジションの違いから、マッチアップすることもなく、緑間がとても遠くに感じる。 休憩に入るたびに緑間の姿を探すものの、試合形式とあって、主将や赤司と一緒にコーチと話し合いをしてばかりいる。 先刻のことについて、ちゃんと言いたかったが、そんな隙はなさそうだ。 「なにか、ありましたか?」 試合が終わったばかりの黒子が汗だくでやってくる。 ドリンクボトルを渡すと、ありがとうございますと受け取った。 「なにも、ないっスよ」 こんな嘘はすぐに見抜かれるとわかっていても事情を説明できないのだから仕方がない。 黄瀬は、首にかけたタオルで流れ落ちる汗を拭きながら、緑間の背中に視線を送った。 「なにもないなら、いいんですけど」 黒子もとめどなく流れる汗を拭って、再び試合の始まったコートへと目を向けた。 それ以上、追求されなかったことに安心をする。 熱気のこもる体育館は無風だ。 午後になって、さらに気温は上昇し続けている。 (暑かったからだ) きっかけは、何でも良かった。 緑間と話がしたかっただけだったのだ。 本当は、その背中に飛びついて、邪魔をしてやりたかった。 (しないけど) 実際に行動に移したら、緑間ではなく、主将、赤司、もしかしたらコーチからどんなペナルティが課せられるかわからない。 何事もなかったかのように振舞う姿をずるいと思う。 外から聞こえる、セミの声。 「緑間っち」 打ち合わせを終えたのか、緑間が先にコートの方へやってきた。 それを逃さないように、黄瀬は駆け寄った。 「さっきのことっスけど」 ドリンクボトルを渡しながら、切り出せば、少しだけ肩が震える。 意識されているのだと、黄瀬は嬉しかった。 「忘れないで欲しいっス」 「……」 どういうことだと、緑間の視線が突き刺さる。 「今じゃなくて、ちゃんと伝えるから、覚えてて」 セミの声がうるさい。 集合の合図の笛の音が響いた。 黄瀬は、緑間の顔が見れないまま体育館の中央へと走った。 答えはまだ出ていない。 それでも、なかったことにされるのは嫌だった。 暑さを理由にしたくなかった。 終わり |
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2013/08/07 |
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※8月7日なので、帝光時代の黄緑の日です。 |
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