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ashamed |
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その日から、緑間は青峰と一切目を合わせようとしなかった。 それは、誰の目から見てもわかるくらいにあからさまで、ほんの少しの噂を呼んだ。 「青峰っち、緑間っちに何してあんなに怒らせたんスか?」 クラスも違えば授業のある昼間に顔を合わす事もない。 移動教室や体育の時に廊下ですれ違う事もない。 放課後、部活が始まっても基本の練習メニュー以外は練習内容が違う。 試合形式の練習やチーム形式の練習がなければ、目を合わせる事もなければ、側に行く事もなかった。 だから、一言も話さずとも成り立っている。 しかも、青峰が緑間と一言も口を利いていないという風にも見えているのだ。 周囲の誤解は誤解を生んでいく。 今日でもう一週間だ。 1on1の途中で、黄瀬が唐突に切り出した。 青峰は八つ当たりでもするようにボールに力を込めて思い切りバックボードに打ちつけた。 ボールはそのままリングを揺らしてすとんと下に落ちた。 「うるせぇよ」 「だって、もう一週間っスよ?青峰っちの機嫌が悪くて空気が悪くなってんの気付いてないんスか?」 黄瀬は転がったボールを拾って、緩いパスを寄越した。 二度、三度ドリブルをしたが、シュートを打つのはやめた。 「緑間っちはいつもと変わんなく見えるんスよね。どうすれば青峰っちと目を合わさなくて、どうすれば話さなくて済むのか計算してる感じっスよね」 軽く分析をする黄瀬がなんだか腹立たしくて、青峰は思い切り強いパスを送る。 「いったあ〜」 そのボールを両手で受け止めた黄瀬はそのまま真上のゴールにシュートを決めた。 「八つ当たりはやめて欲しいっス。何が原因でけんかしてんのかわかんねっスけど、青峰っちが悪いんなら、先に謝った方がいいっスよ」 黄瀬が簡単に言うけれど、そんなに簡単な事じゃない。 謝れば済むかどうかなんて、わからないのだ。 「だって、アイツがっ」 嫌いだって言うから。 追い打ちをかけるように、全部が嫌いだと言うから。 (俺は俺を変えらんねぇし・・・) ゴール下に走り込む青峰に黄瀬がパスを送る。 そのまま青峰はゴールにボールを打ち込んだ。 「どうしていいかわかんねぇのは、俺の方だっつーの」 その場にしゃがみ込んで頭を抱えた。 この一週間、体育館でしか会う事はなかったが、タイミングやきっかけをことごとく逃し、さらに極自然に緑間が無視をするので、青峰は緑間の横顔と背中ばかりを見ていた。 「好きだって言ったんスか?」 「言った」 「緑間っちは?」 「嫌いだって言われたんだよ」 「マジで?」 「こんな事、嘘ついてどーすんだっつーの」 隣りにしゃがんだ黄瀬の額をべしっと叩く。 「だって、どう見たって・・・ってぇえっ」 驚く黄瀬の後頭部めがけてバスケットボールが飛んできた。 「余計な事を言わなくていいのだよ」 「緑間っちぃ〜」 後頭部を撫でながら、黄瀬が緑間を見上げた。 「体育館の使用許可時間を過ぎているのだよ。さっさと帰るんだな」 「だからってボールをぶつけてくる事はないっス。痛かったんスよ」 立ち上がってきゃんきゃんと喚く黄瀬を無視して、緑間は足元に転がっていたボールを拾って籠に戻した。 まるでその場に青峰がいないかのように緑間の視線は届かなかった。 こんなに近くにいても見ては貰えないのか。 青峰のイライラは限界を超えていた。 「じゃあ、帰ろうぜ」 青峰は素早い動きで緑間の手首を掴むとそのまま体育館の出入り口へと向かう。 その勢いに反抗すらできず、引きずられるように緑間もついて行くしかなかった。 「また明日っス〜」 黄瀬がひらひらと手を振って二人を見送った。 青峰に対する緑間が黄瀬の目にはどんな風に見えているのか、それを青峰が知る事はなかった。 体育館を出たところで、緑間が力任せに青峰の手を振り解く。 外の空気は少し冷たくて、汗で濡れたTシャツ一枚の青峰が先にくしゃみをした。 向かい合って立っているのに、緑間とは目が合わない。 「まだ、怒ってんのかよ」 「怒ってなどいないのだよ」 「嘘つくんじゃねぇよっ!だったら、なんなんだよ。ずっと無視しやがって」 今まで溜めこんでいたものが溢れ出し、思わず怒鳴りつけていた。 もっと穏便に事を済まそうと思っていたのはたった数分前だと言うのに。 そんな青峰に怯む事もなく、緑間は淡々と答えた。 「仕方ないだろう?オマエを見ると思い出して気恥ずかしくなるのだよ。集中力が乱れるとシュートの成功率が下がるからな。オレも困っていたのだよ」 「は?」 何かを聞き間違えたのかと、青峰は緑間を見た。 「オレも健全な男子と変わらないと言っているのだよ」 眼鏡のブリッジをテーピングした指で持ち上げて、緑間がようやく青峰の方を向いた。 視線が合うのは本当にあの日以来だ。 ただ、暗くなった屋外では、表情の変わらない緑間の感情を読み取るのは難しい。 「オマエがつけた跡がやっと消えたのだよ。これで随分楽になった」 「緑間・・・」 目の前に立つ緑間を思い切り抱き締めた。 ただ、何を言えばいいのかわからない。 思い出すと言った。 それは、あの時の行為が緑間の中に残っているという事だ。 しかも、白い肌につけた紅い痕と共に。 全身に鳥肌が立つような感覚が通り過ぎていく。 「二度はないと言ったはずなのだよ」 緑間は抵抗もしなかったが、抱き返してもこなかった。 いつか抱き合う日が来ればいい。 緑間の温かな身体が欲しい。 「俺が欲しいって言わせてやる」 「オマエのその自信はどこからやってくるのだよ」 溜息が耳元で聞こえる。 鈍感なのか天然なのか。 それとも全部が計算なのか。 青峰にそれを判断するほどの能力はない。 それでも、まだ可能性があるならば、諦めずに済むのだ。 「俺の事、好きになれよ」 「どうやって?」 一週間前と同じやりとりを繰り返す。 青峰は笑って、そのまま緑間にキスをした。 終わり |
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2012/06/20 |
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painedの続き。 |
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