12月14日

 
     
 


『練習終わった?今日は寒いっスね。半分だけど月がキレイっスよ』

緑間へメールを送る。
ぐるぐると迷った割には、なんだか不自然になったような気がした。
会いたい、声が聞きたい以外で、何を伝えたらいいのか急にわからなくなってしまった。
今までどんな話をしていたのか思い出せず、黄瀬はおはようとおやすみが繰り返される送信履歴をぼんやり眺めた。
返事を期待してメールをしているわけではないけれど、一瞬でも忘れないで欲しいとの願いはこもっている。

(願いというより呪い・・・?)

生れては降り積もる独占欲に底はないらしい。
見ないふりをするけれど、時々零れてしまうのは、どうしようもない。
緑間からの返信は毎回ではないけれど、朝の時間が合えば、おはようと一緒に双子座の運勢とラッキーアイテムを教えてくれた。
そんなささいなことが単純に嬉しくて、保護してしまったりもする。
自分達の世界は狭くて、自由ではないけれど、それでも繋がっていると思いたかった。

(好きって言いたい)

何度も何度も伝えたい。
どれくらい、好きか、目に見えたらいいのに。
きっと、世の中は全部緑色になるだろう。
それくらい、好き。
ポケットに両手をつっこんで、汚れたスニーカーの足元を見ながら歩く自分は、誰よりも寂しい。
『冬は人恋しい季節』と、雑誌の見出しで見かけた。
冬じゃなくても恋しい。
でも冬だから恋しい。

(寒いからかな)

抱き合って眠る温もりを覚えているから。
握った指先の温かさがわかるから。

(一人で寒さをしのげないなら、ずっと側にいれたらいいのに)

こんなにも世界は人で溢れているというのに、世界に自分は一人きりだ。
いつだって、優しさばかり与えられていることに気付けないままだった。
甘やかされていたと、離れてからわかった。

(一人が耐えられないなんて初めてだ)

知らないうちに甘やかすから。
良いとか悪いとかじゃなくて、ただ、ずるいと思った。
自分だって、本当は甘えて欲しいし、甘やかしたい。
でも、方法がわからない。
バカだと言って笑って。
そしたら、バカでいいっスって笑えるから。

(声だけでも聞きたい・・・)

12月になったら、部内の空気も少しだけ緊張感が増した。
それは、この先待ち受けている試合に負けたくないからだ。
練習は嫌いだった。
それでも練習をしなければ、勝てないと知った。
体力が足りなければ、それを補うトレーニングをすればいい。
少しずつ、少しずつ、それでも成果は確実にあった。
苦しさも辛さも厳しさも限界に達する時に、思い出すのは、なぜか夏の暑さとまっすぐに伸びた背中で。
一人、ゴールに向かって黙々とシュートを撃ち続けるストイックな背中。
ずっと、それを見ていたのは、自分だ。
だから今になって、こんなにも会いたいと思ってしまうのかもしれない。
人通りの多い道を抜けると、一気に静寂に包まれる。
瞬間、メールの着信音が響いた。
黄瀬はぴたりと足を止め、携帯電話を見た。
緑間からの返事だ。
珍しいとか嬉しいとか思う間もなくすぐにメールを確認する。

『半分に見える月も影になっているだけで、もう半分はちゃんとあるのだよ。オマエも練習が終わったのならさっさと帰れ』

血が一気に逆流した。
携帯電話を握り締めて、たまらずその場にしゃがみ込む。
芯まで寒かったはずなのに、熱いくらいに一瞬で火照った。

(緑間っちは、きっと、オレを殺せる)

本気でそう思えるくらい、心臓が痛い。
しばらく、その場から立ち上がることができなかった。
全身を駆け巡るような、この気持ちをなんと言えばいいのかわからない。
うれしいの他に言葉が思いつかない。
うれしいよりうれしいのに、うれしいしかない。
じんわりと潤んだ瞳を隠すように空を見上げれば、半分の月がまるで笑っているみたいな形をしている。

(見えなくても側にいるって思ってていいんだ・・・)

何を不安に思っていたのかすらわからないくらい全部が吹き飛んでしまった。
こんなに喜んでいる自分のことを緑間は知っているのだろうか。
黄瀬はふらふらと立ち上がって、深呼吸をひとつ。
それから、手にした携帯電話の通話ボタンを押した。



終わり



 
     
 

2012/12/14

 
     
 

一日一黄緑。
黄瀬くん視点。
微妙につながってしまっているのは、
なんとなく書きやすかったからです。

 
     
 

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