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12月15日 |
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ポケットから取り出した携帯電話には、黄瀬からのメールが届いていた。 『練習終わった? 今日は寒いっスね。 半分だけど月がキレイっスよ』 こんな時間に、なんでもない内容。 緑間は溜息ひとつこぼして、空を見上げると半月が傾いていた。 気温が下がると空気が澄んで、月や星はいつもより綺麗に見えるようになる。 (それだけが原因ではない・・・か) 黄瀬も部活が終わり、帰宅途中なのだろう。 平等に近付いているウィンターカップの気配を感じて、緑間は少しだけ高揚する。 しかし、それとこのメールは意味が異なっていた。 たった3行の文面で気付いてしまう自分に呆れながら、どうせなら気付かなければ良かったのにと、返信の内容を考える。 黄瀬は、一人でいることを好み、一人でいることを嫌う。 自分から離れれば、傷つかない上に忘れるのも早い。 相手から離れられると、人一倍傷つく。 繊細で、扱いが非常に面倒だと、中学時代から思っていた。 何がきっかけで、どこにON、OFFのスイッチがあるのかわからないが、突然一人の寂しさに捕らわれてしまうらしい。 そして、それを無意識に隠そうとするようだ。 必要な時に頼らない、甘えない。 電話をかけてくるような内容をわざわざメールで寄越すのは、話したいけれど、話したくないからだ。 だから、電話はしない。 面倒だと思いつつ、緑間はメールを打つ。 (バカめ・・・) こんな時、思い出すのは無表情の横顔だ。 ボールを抱え、まるで捨てられた子犬のように、一人で体育館に居残っていた。 ゴールを見詰め、ただそこにいるだけの姿を何度も見かけた。 緑間に気付いた黄瀬が笑うのを見て、緑間は初めて作られた笑顔を気持ち悪いと思ったのだ。 見えなくて良い部分が見えてしまうのは、善し悪しだと知った。 好きだからか。 黄瀬だからか。 緑間には、メールの裏側に隠れている会いたいという想いが見えてしまう。 (本当に鬱陶しい・・・) 確かに、お互いの練習が厳しくなり、もう一ヶ月近く会っていないのは事実だ。 寒かったからか。 月が半分に見えたからか。 人恋しくなってしまったのだろう。 寂しがりやで甘えたで、どうしようもなくバカな男だ。 隠していたはずのこちらの気持ちまでずるずるとひっぱりだしてくるのだから、始末におえない。 ちゃんと耐えられるように奥底へしまいこんでいた気持ちが溢れてしまう。 もう一度それを仕舞い込むのは、至難だった。 『半分に見える月も影になっているだけで、もう半分はちゃんとあるのだよ。 オマエも練習が終わったのなら、さっさと帰れ』 目に見えるものが全部ではなく、見えていなくとも存在するものもある。 抱き締めることも温もりを与えることもできないのだから、我慢するほかにないのだと、自分に言い聞かせるように緑間はメールを送信した。 同じ月を見ているのなら、一緒にいるのと同じだと、思え。 携帯電話をポケットに入れて、緑間は歩きだした。 (明日は、先にメールをしてやるか・・・) 寂しさが見えてしまった以上、甘やかしたくなるくらいには、どうしようもなく惚れているのだから、しかたがない。 (好きだと思っているのがオマエだけだと思うな・・・) 半分の月の形が、笑っているように見えた。 終わり |
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2012/12/15 |
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一日一黄緑。 |
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