| 戻 | ||
12月16日 |
||
電子音が耳元で響く。 1、2、3、4、5・・・。 短い時間が長く感じる。 電話を持つ手が少し震えてることに気付いて、黄瀬は苦笑した。 10秒後、コール音が途切れる。 『何の用だ』 低い声。そっけない一言。 緑間は、すぐそこにいる。 声が近いのが嬉しい。 「声が聞きたかったんスよ」 『バカか』 あっさりと言うけれど、顔が見えないからわからないけれど、声が聞けて嬉しいと思っていて欲しい。 「ひどすぎじゃないっスか?メールじゃ優しかったのに〜」 唇を尖らせて拗ねたら、どこまで伝わるのだろう。 『・・・切るぞ』 「ちょ、ちょっと、待って。冗談っスよ。うれしかったから、うれしかったって言いたかったんス」 『そんなに喜ばせるようなことを送った覚えはないのだよ』 「そうだと思ったから電話したんスよ」 冷たい風が横切っていくけれど、寒くはない。 声を聞くだけで、こんなにも温かくなる。 もっと早く電話をすれば良かった。 こんなに簡単なことが簡単にできないから、難しい。 『・・・元気そうだな』 「元気っスよ?風邪ひとつひいてないっス」 『だったらこんなに寒い夜に外にいないで、さっさと帰れ』 急に優しくなるから、我慢ができなくなった。 優しい人は、どうしてこんなにも簡単に甘やかすのだろう。 わざとなのか、無意識なのか、わからないけれど、言わなかったことを言わせる力があるような気がした。 「緑間っち」 『なんだ』 「オレ、がまんしてるんスけど、緑間っちに会いたくてたまらないんスよ。もうずっと会ってない。会って、抱き締めて、キスしたい」 また、呆れた顔をするのだろうか。 また、バカなことを言っていると、溜息を吐くだろうか。 それでも、本当のことだけが伝わればいいと思う。 『・・・・・・そうだな』 「えっ?」 予想外の反応に、黄瀬は持っていた携帯電話を落としそうになって慌てた。 『何故驚くのだよ』 驚くことじゃなかった。 緑間はいつだって、思った通りの言葉を返してこない。 わかっていたけれど、わかっていなかった。 「てっきり、バカめって怒られるかと思って・・・」 『オマエは本当になにもわかってないな。オレ達は付き合っているのだろう?』 「もちろんス」 『オレがオマエと同じ気持ちであってもそれはおかしなことでも驚くことでもないのだよ』 「同じ、気持ち・・・?」 『・・・好きだと言っている』 今夜は、一体どうしたというのだろう。 普段の倍以上のご褒美が絶え間なく送られている気分になる。 少し弱っていたからか、それともメールや電話だからか。 寒いからか。 「緑間っち」 心臓が破裂しそうなくらい、鼓動を早めるから、ずっと顔も身体も熱い。 (なんで、いま、目の前にいないんだろう) 目の前にいないからこそ、聞けた言葉なのかもしれないけれど、それでもかまわない。 『どうした』 「オレ、死んじゃうっスよ。幸せすぎて」 今、この場で心臓が止まったら、本当に幸せな気持ちだけを抱えて眠りにつけるだろう。 (緑間っちに会うまで死なないけど) 好き。 大好き。 何度も言いたい。 『バカにつける薬はないのだよ。これ以上体を冷やすな。さっさと帰って明日に備えろ。いいな』 「えー」 『黄瀬、返事っ!』 「はいっス!」 中学時代に培われた条件反射とは恐ろしいものである。 緑間の少し強い口調にまんまとのせられて、反射的に背筋を伸ばして返事をしていた。 その直後、通話は容赦なく途切れた。 冷たく響く、電子音。 黄瀬はなんだかひどくおかしくて、笑った。 笑いながら、ゆっくりと歩き出した。 (好きだって、言わせてもらえなかった) かわりに、好きだと言ってもらえた。 どちらにせよ、疲れた体が軽くなったように思えるほどの効果があったらしい。 今なら、家まで走って帰れるかもしれない。 (我ながら単純だけど・・・) メールだけじゃ足りなくて、声が聞きたいと思ってる。 会えないことが寂しいと思ってる。 抱き締めたり、キスしたり、エッチしたいと思ってる。 (同じ気持ちって、どこまで?全部?) そんな風に言われたら、確かめたくなってしまう。 このままじゃどうにかなってしまいそうだ。 握った携帯電話に唇を落として、黄瀬は家路を急いだ。 終わり |
||
2012/12/16 |
||
一日一黄緑。今日は黄瀬くん視点。 |
||
| 戻 | ||