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冷たい風が吹く。
乾いた空気は雲ひとつない空を高く映した。
授業のない学校に用はなかったけれど、家よりはなんとなく集中ができるから、図書室で問題集を広げる。
部活がないと、こうも人間は鈍ってしまうのか。
研ぎ澄ましていたわけではなかったが、目の前の席に座るまで、近付いた人の気配に気付かなかったことを宮地は後悔する。
声をかけるわけでもなく、生徒などほとんどいない図書室で、わざわざ目の前の席を選ぶ。
持参したらしい本を読み出すだけで、静寂は破れない。
宮地は目の前に座った男をちらりと睨んで、再び問題集と向き合った。
30分程過ぎた頃。
目の前の男はぱたりと本を閉じて、静かに席を立った。
そのまま、何も言わず図書室を出て行く。
真っ直ぐに伸びた背中。
久しぶりに見た緑色の髪。
なんてめんどうくさい相手なのだろう。
舌打ちをした宮地は、問題集とノートをその場に置いて、その背中を追いかけた。
確かに意地を張って自分も声をかけなかった。
だいぶ理解できるようになったとはいえ、どうしてもタイミングのずれたマイペース過ぎる部分に振り回される。
廊下に出ると冷たい空気に震えた。
図書室の暖房がよく効いてたせいだ。
廊下にはもう誰もいない。
それはそうだ。
よくよく考えれば、まだ授業中なのではないか?
廊下を走って、角の階段まで辿り着くと「廊下は走らないほうがいいのでは?」と、腹が立つほど冷静な声が届く。

「お前、授業は」
「自習です」
「何の用だよ」
「用はありません。顔を見たかっただけです」

向かい合わせに立って、そこで初めて宮地は緑間の顔を見ることになる。
会うのは決して久しぶりではない。
3日前に放課後の体育館に顔を出したばかりなのだ。
3年の姿がない分、コートが広く見えたが、練習の厳しさは何も変わっていなかった。
それでも、自分の居場所がなくなったようで、少し居心地が悪かった。

「挨拶くらいしろよ、後輩」
「勉強の邪魔をしてはいけないと思っただけです、先輩」

相変わらずの無表情で、何を考えているのかわからない。
それでも顔が見たいという理由だけでわざわざ図書室にまでやってくるくらい、情熱的に好かれているのはわかっている。
そこには、嘘も冗談もない。

「何で俺が図書室にいるとわかった」
「高尾が宮地さんが校舎に入るところを見かけたと言ったので、また図書室で勉強をするのだと、それだけです」

一体どこで見られていたのか。
高尾の視野の広さは、バスケ以外でも活用されているらしい。
淡々と答える緑間は、真っ直ぐに宮地を見詰めていた。

「会いたかったって、素直に言えよ」
「会いたかったです」

からかうつもりが、真剣に即答されて、宮地はその場にしゃがみこんだ。

「なんなんだよ、お前は」

ぶわっと血液が逆流してきた感覚は、耳まで熱くする。
そうだった。
ずっと、こいつはこうだった。
毎日顔を合わせなくなるだけで、こんなにも忘れてしまうものなのだろうか。
いつだって、真顔で照れもせずに愛を告げるのだから、始末に負えない。
緑間は宮地と同じようにその場にしゃがむと、ポケットから薄い板チョコをとりだした。

「疲れには糖分補給が有効です」

それは、一年中どこの店にも売っているような、茶色の包み紙に金色でアルファベットが印字してある、ただの板チョコだった。

「今日は何月何日だ」
「2月14日です」
「上出来」

宮地は板チョコを受け取って、近付いていた緑間にそっと口付けた。
キスをするのは、どれくらいぶりだろうか。
緑間があまりにも本気すぎるから、ずっと距離を置いていたのだ。

「本命?」

ほんの少しだけ、緑間の頬が赤く染まったように見えた。

「宮地さんが好きです」

繰り返される告白は、常に一途だ。
宮地さんだけが好きですと聞こえる。
なのに、返答を必要としない。
だから、宮地もずっと答えてこなかった。

「知ってる」

わしゃわしゃと緑間の頭を乱暴に撫でて、宮地が先に立ち上がる。
タイムリミットは近付いていた。

「授業が終わるな。さっさと教室戻れよ」
「・・・はい」

返事をしながら立ち上がった緑間は、ぼさぼさに乱された髪を手櫛で整えると、階段を下りていく。
用はないと言いながら、ちゃんと用意してあったチョコレートには、どんな想いが込められているのだろう。
手にした板チョコを見て笑いながら、宮地もまた図書室に戻った。



終わり



 
     
 

2013/02/14

 
     
 

付き合ってない宮緑シリーズです。
宮地→←緑間。
バレンタインの話が書いてみたくて、
ほんのちょっとの未来編。
このシリーズは、宮地さんの卒業までを書きたいと、
思っております。

 
     
 

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