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好きだと言われたら誰だって意識するものだと思う。
それが、嫌いなヤツでも気に入らないヤツでも興味のなかったヤツでも知らないヤツでも。
こいつがどうして俺の事を好きなのか、と。
俺のどこが好きなのか、と。
一度くらいは考えるだろう。
好きになるんじゃねえ、キモイと思う相手だっているかもしれない。
それくらい、宮地は正直に生きてきた。

(問題は、嫌いでもなければ、キモイとも思わない自分だ)


***


両の手のひらにおさめたボールをゴールに向かって放ってみれば、そのまますとんとリングを通り抜けて、下に落ちた。
フリースローラインよりもっとゴールに近い場所で、ディフェンスもされていない状況であれば、はずす方がおかしい。
ボールを拾いながら後方で黙々とシュート練習を続ける後輩の背中を見た。
傍らにあるボール籠には、もうボールは残っていなかった。
最後のひとつ。
ボールを二回ついて、いち、に、さん。
ルーティンのタイミングを覚えてしまうほど、毎日大量のシュートを撃ち続けている。
音もなくネットを揺らして、ボールは床に落ちて転がった。
緑間は足元のボールからひとつひとつ拾って籠に戻していく。
どれもこれもいつの間にか見慣れた風景になっていた。
手伝う事もなく、ただその背中を目で追いかけた。
練習中も休憩中も緑間と目が合う事は少ない。

(いつ見てんだ?)

今まで緑間を見る事に意識をしていなかった。
先日、突然告白をされたあの日から、気になるようになった。
気にしたくなくとも気になる。
あれから何かが変わったのだとすれば、宮地が緑間を見る時間が増えた事かもしれない。

「宮地先輩」

ふいに呼ばれて、視線が動く。
目の前に背中はなかった。

「まだ、練習を続けますか?」

声が近いと振り向けば、緑間がすぐ隣りにいた。

「なに?もうそんな時間?」

時計を見れば、校門が施錠される時刻まで三十分もない。
宮地は持っていたボールを緑間に渡した。

「帰る」

受け取ったボールを籠に入れ、緑間は用具室へ片付けに行く。
宮地は先に部室へ戻った。
汗に濡れたTシャツを早く脱ぎたかった。


***


制服の白シャツに着替えていると、くしゃみがでた。
二回連続だったから、誰かに噂をされているのかもしれない。
そんな信じてもいない事を思っていると、緑間がやってきた。
真っ直ぐに伸びた背中。
Tシャツを脱いだ姿を見るのは初めてでもなんでもなかったが、ふと気づいた事がある。

「お前、痩せた?」

その幅を計るようにひょいっと両手で腰を掴むと、びくりと緑間の全身が跳ねた。

「ちょっ、やめてください」
「痩せたよな。間違いなく」
「あなたのせいだとは言わないので、はなしてください」

指先を上下に動かしたら逃げるように腰が揺れた。

「くすぐってぇの?」

めったにない反応がおもしろくて、宮地はその手を放そうとしなかった。
以前から身長の割に軽い体重が気になってはいたが、実際に触れてみると緑間は想像以上に薄い。
これで、あの長距離シュートを撃っているのだから、どこかしらに過剰な負担がかかっているのではないかと、心配にもなる。

「指が冷たすぎるせいですよ」
「ほんっと、かわいさのかけらもねーな」

それでも宮地の手を振り払おうともせずに耐えているのは、悪くない。
どこからどうみてもバスケットボールをする人間の身体だ。
欲情するかと言われたらしないと答えるだろう。

「かわいかったらどうするんですか」
「かわいがるだろ、そりゃ・・・」

鍛えられた腹筋の形を辿るように撫でると、さすがに腰を引いた。
もう一度、欲情するかと言われたら?

(まだわかんねえな・・・)

同じ男の身体だ。
しかも身長だけは自分よりも高い。
2つ年下の生意気な後輩。
それは、どれも変化するであろう感情の妨げにはならない。

「じゃあ、一生ムリなので、はなしてください」

ぺしっと緑間の手のひらが宮地の指を叩いた。
見上げるといつもと変わらぬ表情でこちらを見ていた。
眼鏡のレンズ越しの感情の見えない目。

「お前さぁ・・・」

続けようとした言葉を飲み込んだ。

『俺のどこが好きなんだよ』

それは、まだ、聞きたくなかった。
緑間は好きだと言いながら、そんな素振りはどこにもない。
意識しているのは自分だけなのかもしれないと思ってしまうけれど、そうでもない事も知っている。

(俺の答えを待ってるわけじゃない)

緑間が白いシャツに腕を通し、ズボンのベルトを締めるのを目で追いかける。

(ああ、やっぱり)

ウエストに皺が寄るのは、確実に以前より細くなったせいだ。
これから練習はもっと厳しくなるし、練習試合も多くなる。
体重が軽くなるというのは、筋肉が落ち、体力も保たないということだ。

「なあ、ちゃんと食って、ちゃんと筋トレして、ちゃんと身体を作らねえと、困るのはお前だけじゃねえんだぞ」

バシッと背中を叩けば、緑間はずれた眼鏡を直しながら溜息ひとつを返した。
そして、一言。

「・・・はい」

素直に頷いた。
幻聴かと思ったが、そうでもなかったらしいと宮地は驚いて、固まった。
今まで散々かわいくないと言い続けたとはいえ、こんなに容易く言う事を聞くような人間だっただろうか。
戸惑いと照れを隠すように宮地は「着替えたんだったらさっさと帰るぞ」と怒鳴った。
緑間もそれ以上何かを言う事もなく、宮地より先に部室を出た。
校内のどこにも生徒は残っていないらしく、ただ薄暗い廊下は静まり返っている。
玄関に向かって歩いていた緑間の後ろを追いつかず、追い越しもせず歩く。

(意識したからって、すぐに変わるもんじゃねえし・・・)

どこが好きなのか。
なんで好きなのか。
気にならないわけがない。
けれど、緑間は何も言わない。
だから、宮地も何も答えない。
廊下と同じように、二人の距離も平行線のまま、どこまでも続いているように見えた。



終わり



 
     
 

2012/10/25

 
     
 

告白されてもいつも通りに接する宮地さんと、
告白したけど両想いにならなくてもいいと思ってる緑間くん。
二人とも、二人きりになるのは嫌だなと思ってる。
ずるずると、関係は続いていくのです。

 
     
 

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