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夏から秋に季節が移る。 青々と茂っていた葉っぱは赤や黄色に色づいて地面に落ちた。 歩いているとかさかさと乾いた音がする 見上げれば桜の木が一足早く寒々しい姿を晒し始めていた。 昨夜は風が強く吹き荒れていたと思い出す。 陽が落ちた後、一気に気温が下がると冷たい風が鼻の頭を赤くした。 *** 1ヶ月くらいじゃ、なにも変わらなかった。 緑間はもともと表情が乏しいせいで、感情の変化が表に出る事はなかったし、宮地も常に怒鳴り散らす程度にいつも通りだった。 部活後の自主練も最後に残るのは二人だったり、三人だったりした。 三人の時は、高尾が宮地に甘えて、コンビニに寄り道をする。 肉まん食べたい、おでんが食べたい、腹減った。 高尾は迷う事もなく、自分の欲求をぽろぽろとこぼしていく。 宮地はうるせえ、黙れ、勝手にしろと言いながらも時々、肉まんを買ってくれた。 今日は、二人分。 宮地さんは食べないんですか?と緑間が問えば、じゃあ一口よこせと横から齧った。 俺のも一口食べて下さいよーと高尾が言えば、いらないと言う。 肉まんを食べ終わると、宮地さんごちそうさまでしたー、真ちゃんまた明日ーと、にこにこ笑って高尾は先に帰って行く。 まだ同じ道を通るというのに、一人だけ走って行ってしまう。 「お前、アイツになんか言ったのかよ」 宮地がその背中を視線だけで見送った。 自然に振る舞えば振る舞う程、それは、明らかに不自然だ。 「あなたに告白したと、翌日に報告だけしました」 あれからずっと、高尾は二人に気を遣い続けている。 それが、無意識なのかどうなのかは高尾ではないのでわからない。 「バカだな」 「そうですね」 「てめぇもだ」 「それならあなたもでしょう?」 緑間は肉まんの欠片を放り込んで、もぐもぐと口を動かした。 視線は前を向いたままだ。 宮地はいまだに必要以上に緑間と目が合う事がない。 「緑間」 そう呼べば、視線はゆっくりと動いて宮地へと移る。 見詰め合うのは、間に意志が介在した時だけだ。 パス練習、試合中、そして、円陣。 宮地が話している時、目の前にいる時、呼んだ時。 (だから、いつ見てんだよ) 自分よりほんの数センチだけ目線が高い。 眼鏡のレンズがコンビニの灯りを反射して、その奥の瞳が良く見えなかった。 「宮地さん?」 何も言わない宮地に緑間が疑問を持つのは当たり前だ。 お互いの視線が交わったまま、沈黙が続く。 けれど、何も言えなかった。 言葉が何一つ浮かばなかった。 頭の中が真っ白になるとよく聞いたり読んだりするけれど、そうか、この事を指すのか。 本当に真っ白で、目の前に緑間がいることしか認識できない。 思考が真っ白になった事を理解している自分がいるというのに、それ以外の何もかもが消えている。 「宮地さん、オレはあなたを困らせていますか?」 真っ白な脳内が、ぱちんっとはじけた。 何もなかったはずの場所に洪水のように一気にいろんな感情が渦を巻いて押し寄せる。 拾うものを間違うな。 宮地は慎重にぐるぐると流れてやってくる何かから、今、必要なものを見極めようとした。 困った覚えはない。 先に挑発したのは宮地で、選んだのは緑間だ。 いわば、共犯である。 「誰も困ってねえよ。勝手に思い込むな」 「そうですか」 「それ以上余計な事考えたら俺がぶっ殺す」 「殺されるのは困ります」 「だろ?」 「宮地さんが犯罪者になってしまうのだよ」 緑間は少し俯いて、それから自分で買っていたおしるこの缶の蓋を開けた。 ステンレスのパキっと折れる音がする。 「そこじゃねえだろ」 緑間から目を逸らして、溜息と共に呟いた。 聞こえていただろうに、緑間からは何も返ってこない。 宮地はもう一度溜息を吐く。 言葉は通じているのだろうか。 通じていなくてもかまわないけれど。 「帰る」 「ありがとうございました」 ぺこりと頭を下げようとする緑間の手を掴む。 「てめぇもだっつーの」 テーピングのざらざらした感触が冷えた指先に伝わる。 おしるこの缶を持ったまま、緑間は素直に従った。 ぎゅうぎゅうと力任せに握った指先が少しだけ温かい。 「宮地さん」 「なんだ」 「あなたが犯罪者になるのは嫌ですが、あなたに殺されるなら本望です」 一歩後ろをついてくる後輩が物騒な事を今日の晩ごはんのメニューを告げるのと同じ口調で言う。 二人きりで一度も食事をしていないのに。 それは酷く情熱的で、けれど、非現実的だった。 あまりにも二人の関係と相似している。 隣りに並ぶ前だったから、また緑間の表情を見損ねたと、宮地は思う。 「一生殺さねえから安心しろ」 冷たい指先も赤くなった鼻もそして、向かい風も。 全部消えて、残ったのは熱だけだった。 終わり |
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2012/11/13 |
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付き合わないままの宮緑。 |
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