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consciousness 2 |
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黒子に会いに来た。 黒髪の人はそう言って人懐こい笑顔を見せた。 (この人は僕を嫌っていたのではないのですか?) にこにこと笑う人を眺めて、首を傾げる。 意図がわからないものと関わるのは、面倒事ばかりだ。 「高尾君?」 白シャツに黒いズボン。 襟元のボタンを二つはずしているのは、涼しそうだ。 黒子はいつものくせで、目の前にいる高尾を観察してしまう。 「黒子、この後少し時間はあるか?」 高尾から少し離れたところにいた緑間が溜息まじりで尋ねてきた。 「今日はもう帰るだけなので、遅くならないのであれば大丈夫です」 先日、初めて緑間と対戦をした。 思っていた以上に強かったけれど、諦めなかった。 諦めない事だけが自分にできる精一杯だったけれど、僅差で勝てたのは、ほとんど運だったのかもしれない。 そんな事をぼんやりと思う。 試合中は必死で何も考えられなかったけれど、その後、緑間に勝ったという事実は、しばらくの間、黒子の意識を埋めた。 久しぶりに会った緑間は、以前とあまり変わったようには見えず、ほんの少しだけほっとする。 「オマエに用があるのは、こいつだ。あとはまかせるのだよ」 ぽんっと、高尾の肩を叩いた緑間はくるりと踵を返す。 相変わらず真っ直ぐな背中だと、その後ろ姿を見上げた。 「え?ちょっと、真ちゃん、マジで?」 「自分で何とかしろ」 慌てる高尾をそのままに振り返りもせずに緑間は行ってしまった。 いくらお互いを苦手としているとはいえ、少し素っ気なさすぎるのではないかと黒子は思ったが、確かに自分も緑間に用はないのだ。 そして、目の前にいる高尾にも。 「えーと。話したいことがあんだけど?」 意を決したのか、高尾は笑顔のままそう切り出した。 いつまでも校門の前にいたのでは、悪目立ちをしてしまう。 黒子は通学路の途中にあるハンバーガーショップへと高尾を誘った。 バニラシェイクを持って窓際の席に行く。 「僕になんの話が?」 急ぐ事はなかったけれど、気まずい空気は苦手だった。 普段は誰にも気付かれずに静かに日常を過ごす。 部活以外では、誰かと共に居る事もない。 共通点も少ない相手とこんな風に改めて向かい合って、何を話せばいいのかわからなかった。 「あ、メアド教えて?」 目の前に座っていた高尾が、手慣れたように携帯電話をテーブルの上に置いた。 「え?」 「だから、メアド教えて。あと電話番号も」 「な、なんでですか?」 「友達から始めようと思って」 最初に見たときから、高尾はずっと笑っている。 他にどんな表情をしたらいいのかわからないのか、それともこれが彼の普通なのか。 そこまでは、わからない。 「俺さ、黒子のことがすんげー気になってんの。同族嫌悪とか言っちゃったけど、それくらい似てる部分が多いのかなって思っててさ。でも、違ったから。だからもっと黒子のこと知りたくなったんだよね」 「それで、友達ですか?」 「特典は緑間の観察日記とかどうよ?」 「それ、迷惑メールです」 「ぶっは!言うねぇ。そーゆーはっきりしてるとこも気に入ってんだよね」 「高尾君に気に入られても困ります」 「え?困るの?だめ?」 「・・・・・・だめ、じゃ、ないですけど」 黒子はスポーツバッグのポケットから携帯電話を取り出した。 断る理由も拒否する理由も思いつかない。 であれば、教えてしまった方が気が楽になる。 選択肢の少ない案件は、迷う事も少ない。 「メアドと電話番号でいいんですね」 「いいの?」 「教えて欲しいと言ったのは高尾君ですよ」 「サンキュー」 驚いたように目を見開いて、すぐに満面の笑顔に変わる。 初めて本当の笑顔が見れたらしい。 (緊張、してた・・・?) 高尾とはポジションの関係で今後も対峙する事は多いだろう。 仲良くなる事が良いかどうかは、今の時点ではわからない。 ただ、少なからず自分に好意をもってくれた相手を邪険にはできない。 いくつか理由を探して、迷いを消していく。 この気持ちは、たぶん、高尾にはわからないだろう。 存在を認められない事が日常の自分が、積極的な好意に弱い事を悟られてはいけない。 「じゃあ、俺のは後からメールするから」 「今じゃないんですか?」 「うん。あとで」 単純な人でも簡単な人でもない事は、試合で対峙してわかっていたはずだというに、なんとなく騙されたような気がした。 「今度一緒にバスケしよーぜ」 「僕としてもおもしろくないと思いますが」 「だから、おもしれーじゃん」 笑う。 良く笑う人だと、思った。 「おもしろくないことがおもしろいんですか?」 「そうじゃねえよ。おもしろくないと思ってる黒子がおもしろいんだって」 なるほど、と。 黒子は納得する。 面倒くさい事や難しい事は基本的におもしろくない事だ。 だから、人は、諦めるし、嫌うし、避ける。 けれど、高尾はそれをどうにかして、自分がおもしろいと思える事に変換しようとするのだろう。 (緑間君と一緒にいることができるのは、そのせいでしょうか) バスケに関してだけではなく、人間関係でも視野が広い。 (ポイントガードに向いている人ですね) バニラシェイクを飲み干して、黒子は高尾と目を合わせた。 「どうかした?」 高尾が首を傾げる。 「なんでもないです」 自分の周りにはいなかったタイプである事がおもしろくて、黒子はもう少し高尾の事を知りたくなった。 終わり |
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2012/08/29 |
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高尾→黒子。 |
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